[お前ら、もっと離れろよ] ピオジェ←ガイ…?な感じで(ガイジェ←ピオでも可) 「失礼しま――――…」 「あ、陛下なら今はいませんよ」 俺が陛下の私室でブウサギに餌をやっていたら、軽いノックの音と共に、軍服の男が入ってきた。 青年、と呼んでも差し支えないその若々しくて整った顔には、俺も覚えがある。 「フリングス将軍…です、よね?」 「あ、はい」 初めてグランコクマに来た際に顔を合わせて以来、まともに話もした事がなかった、形式上は旦那の上司にあたる人だ。 それだけを覚えていた俺は、自信はなかったがそう呼んで、合っていた事に密かにほっとしていた。 ……と、それはともかく。 いない、と言った途端顔を僅かに曇らせたフリングス将軍が気になった俺は、余計かと思いつつも口を挟んでみる事にした。 「あの――――…何か、お急ぎだったりします?」 「ええ、まぁ。陛下に―――…というよりは、カーティス大佐に用がありまして。大抵この時間なら陛下に捕まっている時間かと思ったのでここへ来たのですが」 言いながら、軍関係のであろうか、何枚かの書類を掲げて見せた。 なるほど、数字や文字がびっしりと並んだそれは、筋肉だけで構成された軍人が見たなら、少々眩暈がするかもしれない。 元はデスクワーク派だろう旦那なら、問題なく見ていられるのだろうが…将軍の方も、そういうのが苦手なのだろう、見たくないとばかりにすぐにその書類を脇へと持ち直した。 「あといるとすれば――――」 「それじゃあ、俺が探してきますよ。丁度ブウサギの世話も終わったし帰るついでですから」 だから、それ渡しときますよ、と言うと、将軍は少し思案したが、笑いながら「助かります」と答えて渡してきた。 少しだけ―――ほんとに少しだけ、残念そうに見えたのは気のせいか? 僅かな疑問が脳裏を過ぎったけど、気にせず俺は廊下で将軍と別れて宮殿内を歩き始めた。 陛下にブウサギの世話を押し付けられ…いや、任されるようになってまだ半月程度なのだが、警備兵とは既に顔見知りになってしまって、通る度に挨拶を交わす。 「…っと、そういや、大佐がここ通らなかったか?」 ずっとここに立っていたのであろう彼らなら、ジェイドの旦那が何処へ向かっていったかも見ているだろう。 そう思って聞いてみたら、案の定、彼らは「ああ」と口々に声を上げた。 「カーティス大佐なら、謁見の間へ向かわれましたよ」 「謁見の間に…?なんでまた」 「陛下がいらっしゃるので、雑談でもされているのでは?」 私室でも十分に出来る事を? 一体何の用で行ったのか気になったけど、とりあえず俺はありがとう、とだけ言って謁見の間を目指す事にした。 「失礼しまー…あれ?いないし」 私室を出て階段を上ってすぐの謁見の間へ、一応ノックをして入ったんだけど…そこはがらんとしていて、いつもは横に控えている筈の兵すらいなかった。 いないのか? そう思ってすぐに部屋を出ようと踵を返した所で、旦那の声らしきものが奥から聞こえてきた。 「…?」 だが、姿が見えない。 確かに会話らしい声が聞こえたんだけど――――…幻聴か? そう思ってまた後ろを向いたところで、今度は 「―――だから、違うって」 陛下の声も聞こえてきた。 一体何処に? とりあえず玉座を目指して歩いて行くと、なんと後ろの窓辺で、彼らは会話をしていたのだ。 (見えない訳だ…) 何だかんだで、謁見の間は広く、入ってすぐのところからでは玉座の裏に人がいるとまでは分からない。 むしろ、玉座の近くで会話をしていても入り口付近では殆ど聞こえないのだ。 俺の聴力がよくなければ、きっとその声すら拾えずに、諦めてさっさとここを出て行っていただろう。 聞こえてよかった、と内心思いながら彼らに声をかけるべく近付いた俺だったけれど、気付いても無視しているのか、はたまた気付いていないのか、二人…陛下と大佐は、未だに滝を見ながら会話に興じていた。 その内容に思わず聞き耳を立ててしまったのは、まぁ、仕方のないことだろう。 「――――…だから、どうして貴方はそういうどうでもいいことばかり…」 「いいだろう?旅で色んな所に行ったお前とは違って、俺はあんまり外には出られないんだ。このくらいの楽しみは許せ」 「………視察と称して以前は私を好き勝手に連れまわしていらっしゃった方が、よくもそんな事が言えますねぇ?」 「なんだ、まだそんな事を言ってるのか。過去は振り返るな!」 本当に他愛のない、ただの会話だった。 まさかそれが謁見の間、玉座裏で繰り広げられているとは思えないほど、政治やら戦争とは無縁の平和な話の内容。 旦那もこんな普通の話ができるんだな…… などと、柄にもなく感動してしまった。 「―――――…ん?」 と、陛下が急に声を上げた。 ただ何とはなしに向けていた視線の先で、何かを見つけたらしい。 「なあ、あそこ、壁に花が咲いてないか?」 「…は?」 「滝の隙間から見える壁にだよ。ほら、あそこ」 変わったものを見つけた嬉しさからだろうか、妙に子供っぽい声で陛下が指差す先。 二人から更に滝に遠い位置にいる俺には、勿論さっぱり見えない。 だが、ジェイドもどうやら陛下が何処を見てそんな事を言っているのかが分からなくて、首を傾げながら滝を凝視していた。 「だから、あそこ。」 「……だからといわれましても」 あきれ返るそぶりを見せながらも、まだ頑張って探そうとしているらしいジェイド。 普段の鬼畜っぷりからは想像もつかないくらい、陛下に対しては律儀な所があるらしい。 何となく面白くないが。 そんな事を考えて観察を続けていたら、どうやら陛下の方がしびれを切らしたらしく、唐突に左腕でジェイドの腰を捉えると、自分の方へとぐっと抱き寄せた。 「だからー、あそこだって」 ジェイドの顔ギリギリまで自分の顔を寄せ、自分の視線とジェイドの視線とを合わせながら、陛下は再び滝を指差した。 すると、それでようやくジェイドも何を指していたのかが見えたらしく、「ああ」と納得したような声をあげる。 その反応に満足したのだろう、陛下は何事もなかったかのように、ジェイドの腰から腕を離した。 「水辺によく咲いているハマユリですね。よくもまぁ、あんな場所に…取った方が良いでしょうか」 「いいじゃないか、綺麗だし」 (え…旦那、今の行動に関してはスルーかよ!?) また、和やかな会話が再開された。 俺の見間違いじゃなければ、えっと…確か、陛下が物凄い行動を起こしたような気がしたんだが。 ていうか、いくら親友だからって、くっつきすぎじゃないか…? そこで俺はようやく、二人の距離の近さに気が付いた(出来れば気付きたくなかったんだが)。 その間には、人一人入るか入らないか、という程度の距離しかなくて、それはまるで内緒話をするかのような近さで。 先ほどの陛下の行動でも分かるように、すぐに抱き寄せることができるくらい近いのだ。 どうして気付かなかったのか…不思議なくらい、異常な近さだった。 「………おや、ガイ?」 「どうしたんだ、そんなところでつっ立って」 おののいている所で、ようやく二人が俺の存在に気付いてくれた。 その態度には、今の行動を見られた?という感じの気恥ずかしさも気まずさも何もなくて、まるで当然といった空気が流れている。 ええと……こういうのは日常茶飯事……って、事なのか? 「ああ――――…フリングス将軍が、旦那にこれをって」 「…そういえば、渡したいものがあると仰っていましたね」 「帰るついでだったから、俺が代わりに探してたんですよ」 「ご苦労だったな、ガイラルディア」 書類を渡したものの、小さく頷くだけのジェイドに代わり労をねぎらってくれる陛下。 だが、俺としては礼どころではなかった。 さっきの行動、いつものことなんですか…? 陛下の顔を見て、思わずそんな問いを投げかけたい。 納得のいく回答を得たい。是非とも。 ほんとに、なんだったんだ、今の。 だけど、「いつものことだぞ?」と返されそうな気がして怖くて、結局聞かないまま、その場を後にした。 ああ、俺の意気地なし。 ガイジェっぽい短文オマケ +反省+ |