[ガイジェっぽいおまけ]
「……………ガーイ〜?」 玉座での一件があってから、ガイは少々拗ね気味だった。 ジェイドは、過剰スキンシップのきらいのあるピオニーの事が分かっていたし、長年ああいう人間だった為に慣れていたので、気にしてはいなかった。 だが、あれを見た途端、ガイの様子が著しく変化していったので、きっと彼は誤解か気にしているか、ともかく宜しくない方向に考えが向いてしまっているのだろう。 そう思ったジェイドは、珍しくご機嫌取りをしにガルディオス家を訪れていた。 初めて訪れるが、なかなかに立派な屋敷を宛がわれたものだと思う。 果たして、ホドの件があったからなのか、はたまたジェイドの………だからなのか。 度々私的な理由で馬鹿なことをする皇帝だから、もしかすると後者なのかもしれない。 ともかく、そのガルディオス家の部屋で、一人ぼんやりと…いや、ぼんやりとしているように見えて、その実少々へそを曲げているガルディオス伯爵様の様子をこっそり窺った。 黙っていれば、女性恐怖症なのが勿体無いくらい、整った顔立ち、甘いマスクの持ち主の彼。 口を開けば女性が勘違いを起こしてしまいそうな甘い言葉をかけ、優しく笑う。 その上ルークを育ててきたという事もあり、何処か世話焼きで、様々な経験を経てきたせいなのか、21歳という年齢の割に大人びていて。 その癖、過去の凄絶さを微塵も感じさせない、あっけらかんとした様子を見せているものだから、凄い青年だと思う。 そんな彼が、他愛もない理由で拗ねているのかと思うと、笑いがこみ上げてくるというものだ。 「………何、笑ってるんだよ」 「いえいえ〜?私は笑ってなどいませんよー?」 口元が笑っているのを自覚しながらも、それを否定する。 目が据わっていらっしゃるガルディオス伯爵様…もとい、ガイは、しかし益々面白くなさそうな顔で、ふい、とジェイドから目を逸らした。 「どうせ子供だーとか、思ってるんだろ」 「いいえ、ルークよりは大人なんじゃないですか?」 「…………あんた、いい性格してるよな」 引き合いに出すのが、よりにもよって子供の代表格ルークとは。 殆ど子供に等しいと言っているようなものではないか。 溜息が出そうになるのを何とか押し留めながら、ガイはようやくジェイドを正面から見た。 相変わらずの笑みを浮かべて、そこに立っている。 果たして本当に35歳なのか、と常々疑問に思う彼は、普段絶対にこんな場所には寄り付かない。 なのにどうして今日は来ているのかといえば、きっとガイが機嫌を損ねているのを知っていて、わざわざ来てくれたのだろう。 自惚れるつもりはないが、極端に悲観的でもない思考は、そういう結論をはじき出している。 子供だ、と暗に言われたのを否定したい気持ちだったが、事実子供らしい、と、ガイはふと自嘲した。 滅多に人の為に時間を割こうとしない彼が、わざわざ来てくれた、それはすなわち、それだけ自分の事を考えてくれているという事で。 それがちょっとばかり嬉しくて、拗ねていた顔が段々と元へと戻っていく。 そんなガイを見て、益々食えない笑みを深くして行くおっさんを横目に、悔しいと思う反面、やっぱり嬉しいという感情が勝って行く。 それがまた悔しくて、立ち上がると、彼にしては珍しく、少々荒い歩調で扉近くに立っているジェイドの元へと歩いて行った。 「ガイ、機嫌は直―――――…」 「直りました。お気遣いどうもありがとうございます、大佐殿」 わざと敬語を使ってそう答えたガイは、ぺろ、と自らの唇を舐めた。 そして何事もなかったかのように部屋を出て行くと、にやけた顔のまま、自室を目指し…というより、逃げていった。 同じように唇を濡らした…否、第三者によって濡らされた、少々呆け顔のまま突っ立っているジェイドを残して。 +反省+ |