[失恋を知った日] ※ピオジェ前提のガイ→ジェ。 見てはいけないもの、というのは数多く存在している。 例えば夫婦で言うなら、不倫の現場であったり、平和な内容でいくなら「へそくり」の隠し場所であったり。 特にそういったものを第三者が見てしまうと「見てはいけないものを見てしまった」と罪悪感にかられたり、いたたまれない 気持ちになったりするものだ。 俺は、まさに今、そんな気持ちだった。 ―――――…俺は、ただ仕事…ブウサギの世話をしに陛下の部屋を時間通りに来ただけなのに。 何が楽しくて、見てはいけないモノを目撃しなければならないのだろう。 「陛下」 そう呼ぶ声は、勿論俺じゃなく、部屋の中で、実際陛下の目の前にいる人物だ。 僅かに開いた扉の向こうに見える人影――――それは、ジェイドだった。 二人は俺の存在など気付きもしないで、ベッドの上でぺったりとくっついている。 まぁ、主にくっついている…くっつこうと腕を伸ばしているのは陛下の方なのだが、それをそのまま甘受しているという事は、イコール、 ジェイドもまんざらではない、という事。 ジェイドは俺なんかには絶対見せようとしない、穏やかな笑みを浮かべてその腕を好きにさせていた。 そんな二人を包む独特の空気……それは、何処から誰がどう見ても、恋人同士の甘やかなものだ。 独身な上に36にもなるが焦がれる令嬢の多い皇帝陛下と、同じく35歳で相手には不自由していないらしい懐刀が、そんな関係だったとは。 驚きと、しかし同時に納得がいく。 初めて陛下に謁見した時、幼馴染だとか確固たる信頼関係だけでは説明しきれない、距離の近さを感じていたからだ。 今も、普通なら絶対にジェイドが許しそうもないゼロにも等しい距離だというのに、あいつはそれに苦も居心地の悪さも感じていないよう だったし、何より陛下は当然のように、極々自然に距離をつめてきている。 という事は、これが日常だという事で。 しばらく、己を絡め取る腕にされるがままになっていた旦那だったけど、ふと思い出したように時計を見ると、幼子を嗜めるような優しさで 陛下に呼びかけた。 「…ガイがもうすぐ来ますよ」 それでも陛下を止めるつもりは毛頭ないのだろう、更に猫の子のように摺り寄ってくる陛下に、抵抗らしい抵抗もせず―――――おそろしく あっさりと、ベッドへと沈められる。 「そんな事言っても、お前だってしたいんだろう?」 今、ここで。 言いながら、陛下はジェイドに覆いかぶさるようにして身を沈めていく。 直後、ジェイドの苦しげな声と息遣い、それに何だか濡れたような音が聞こえてきたから……きっと、キスでもしたのだろう。 それも、かなり濃いやつを。 どれだけ陛下のキスは上手いのだろう――――しばらくして顔を上げた陛下の下で、ジェイドはすっかりその気の顔になっていた。 その様子に少なからずショックと興奮と罪悪感を抱きながら、でも俺は目を離すことができなかった。 だって、あの顔は、あの声は、あの態度は―――――…本来なら、陛下以外には見せない、希少極まりないものだから。 そして、それらは全て、絶対に俺に向けられるものではないから。 そんな自分の思考回路に気付いた瞬間、俺は慌ててその部屋を飛び出していた。 勿論、音を立てないように。 ―――――…なんてこった。 俺は、どうやら旦那に惚れていたらしい。 知ったのと同時に失恋しちまったけど―――――… 自嘲しながら、俺はただ何でもない風を装って、天を仰ぐしかなかった。 +反省+ |