[無題 3] ※どうせなら朝チュンまでという事で。 毒を食わば皿までだ!(笑) 窓の外がやけに明るくて、眩しくなって目が覚めたらしかった。 ハッとなって起き上がれば、そこは見慣れたカーティスの屋敷の自室でもなく、かといって仕事で疲れてそのまま倒れこむ、執務室の仮眠用ベッドでもなかった。 滝の音が僅かに響く、広い部屋。 シンプルな、だがそれでも意匠の凝らされたベッドで、ジェイドは今まで眠っていたらしかった。 窓の外は明るく、陽の光に滝の水が反射して、キラキラと輝いている。 壁の殆どが窓であるから、その眩しさと風景そのものの壮大さは素晴らしい。 寝起きの頭で考えた事にしては上出来だ、と一人納得し、ジェイドは低血圧故に少し不機嫌そうな顔を、ようやく部屋へと向ける。 小さな本棚と、大きな飾り棚があった。 中を見てみると、本棚には結構空白があって、しかも何冊かは横に積まれていたり、床に置いてあったり、あるいは中途半端に開いたまま置き去りにされている。 飾り棚の方もなんだか変なものばかりがおいてあり、それよりも…といわんばかりに、その棚の前に、武器類がゴミのようにおかれている。 しかしそんな扱いでもある程度のランク付けはあるらしくて、ひときわ綺麗に磨かれたものが、棚に立てかけられているようだった。 ベッドに関しても、せっかく立派なものであろうに、シーツはぐしゃぐしゃで、枕など、一つが床に落ちてしまっている。 その上シーツの一部に血なんかが散っていて―――――…。 「……………!!」 そこでようやく、ジェイドの思考回路は日中の正常な回転力を取り戻した。 いや、一気に覚醒したといってもいいだろう。 ともかく驚きと共に元凶を探すべく、鋭い眼差しを部屋へとめぐらせる。 だがその元凶をジェイドが視認するよりも先に、その元凶自らの腕が、ジェイドの腰へするりと伸びてきた。 「………おきたのか…」 「!陛下…ッ」 寝汚い皇帝陛下は、へら、と締まりのない笑みを浮かべて、ジェイドの腕を引っ張り力ずくでベッドへと横たえる。 寝ぼけたままの行動なのだが、元の力が強いのと、ジェイドが疲弊していることから、難なくその意図のままに動かされてしまった。 そこにいたのは、昨夜自分を好き勝手にした、皇帝陛下…ピオニーがいて。 「休暇申請は俺が出してあるから、仕事に行かなくてもいいんだ―――――…寝とけ、疲れてるだろ?」 「はて…それは誰のせいでしたっけねぇ?」 最大限の嫌味を込めた台詞を男へと返してやると、どういう事なのか、一瞬こちらを凝視したかと思うと、幸せそうな―――それはもう、こっちが腹立って蹴り落としたくなるくらいの笑顔を浮かべた。 「あ〜…俺だなぁ。悪いな、これも仕事だ」 世継ぎ作りという事か。 分かってはいるが、この締まりのない顔はどうにかしてくれないものだろうか? 「そうでしたね。ならば少しでも早く、相応しい妃を見つけてその方と世継ぎ作りに励まれてください。戯れであっても、私のような――――」 「なんだ、まだそんな事を言ってるのか…」 呆れたように一つ息をつくと、ピオニーは足でジェイドの体全体を捉えると、一層引き寄せた。 素肌同士が触れるその行動にジェイドがうろたえたのを気配で感じ、ふっと笑った。 ネフリーへの想いで一度は勘違いを起こしたこの想いを、ようやく成就させられたというのに―――――皇帝の愛を一身に受けた筈の相手の方は、なんと冷たい事だろう。 まだ線引きがしっかり出来ていない事や、ピオニーの想いというものをまだ軽く考えているせいなのか、それとも単なる照れ隠しなのか。 理由なんてその位だろうが、やはり否定されると面白くない。 こちらはこんなにも愛情を注いでいるのに、それが返ってこないというのは寂しいではないか。 「未来の皇帝なら、お前に似て頭が良くて、俺に似て決断力やらカリスマ性があった方がいいに決まってるだろう」 「――――…私は、未来の正妃様に似て、慎ましやかでお優しい未来の皇帝の方が良いかと思いますが」 かわいくない事を言ってくれる。 ピオニーは憮然とした顔で、目の前の白い身体を眺めた。 上から下まで、じっと眺めれば、胸は標準よりも大分小さいが、とても30を超えたようには見えない完璧な肢体だという事が分かる。 だが、色気というものを理解していない。 経験がないというのは、確かに生まれるかもしれない子が絶対にピオニーの子であるという確証に繋がるが、段取りや喘ぎ方くらいは覚えて欲しいものだ。 昨夜の行為、序盤での彼女の姿を思い出しながら、ピオニーは溜息を付く。 「………何か?」 「いや、お前さ、もう少し可愛くなれ」 じろりと睨んでくるこの幼馴染。 挿れた当初、物凄く痛がって、喘ぐどころかかなりの悲鳴を上げたのだ。 まぁ、確かに初めてだから痛いのかもしれない。 だがその叫びを耳元で、数秒とはいえ体感させられた身にもなってはくれないものだろうか。 一瞬、天国でひいじいさんが呼んでるのが見えたぞ―――…? そう思えるくらいには、酷い声だった。 キスで塞がなければ、もしかすると何事かと兵が入ってきたかもしれない。 ついでに言うと、色気の欠片もない声だったし。 しかしそれでも、後半は何とか聞ける声だった――――殆ど、息を詰める音と掠れ声の悪態ばかりだったけれど。 まっさらである事は嬉しいけれど、逆を言えば、一から調教していかなければならないという大変さもあるのだと、昨夜は十分過ぎる程痛感した。 勿論、初めてを手に入れられた事は嬉しかったけれど。 「それに、子ども生んだら少しは痛みが薄れるかもしれないぞ?ここが広がって」 「…陛下、セクハラ発言です。」 散々昨日押し入った場所を人差し指で、つ、と撫でると、僅かに焦った声で叱責が飛ぶ。 少し力を入れれば、その割れ目へと指が入っていき、まだ熱を持ったままの突起物のある場所へと到達した。 親指も動員してきゅっと摘めば、覚えたばかりの快楽を察知して、潤んだ瞳で抗議の眼差しを向けてくる。 ああ、と唐突に納得したような声を上げると、ピオニーはジェイドの腰を捉えた。 途端、びくりと震えたジェイドに笑いかけ、思ったままを口にする。 「お前は煽り方だけは上手いからな、あとは最中の態度を勉強しろ」 「………随分な言い草ですねっ」 快感を思い出させるかのような動きに変わってきたピオニーの手から逃れようともがきながら、それでも眼差しは変わらず強いまま、ジェイドは悪態をつく。 その間にも、突起を弄っていた指は僅かに下へと移動していき、内部を目指し始めていた。 「という訳で、これから俺が教えてやろう」 陽はすっかり高くなっているというのに――――…! ジェイドは執務はしなくていいのか、と反論しようとして、ふと気が付いた。 「昨日から迂闊すぎるぞ、お前」 「………私としたことが……」 そういえば、時間的にはもうメイドが朝を告げに来ていてもおかしくない時間だ。 それなのに、部屋の外は静かなもので。 議会を通った時点で、既に周囲はこれを見越して予定を組んでいたのだ。 皇帝の予定を空けておいたのだ、わざと。 ついでに言うならば、ジェイドの仕事も、急ぎの案件は昨日のうちに片付けてしまっていた。 いや、時間がありそうなものすら、上司に急がされたのだ。 つまりは、皆グルで。 「…………覚えていなさい」 企みが成功して、すこぶる楽しそうな皇帝を睨みつけながら、ジェイドは低い声音で呟いた。 +反省+ |