[無題 2] ※いっそ初夜も書いてみたらどうだろう…と思って。 夜になって、いつもの調子で部屋に来いと言われた。 要するに、油断していたのだ。 皇帝になっても、相変わらず自分を大切な友人として扱っていたものだから。 思えば、そんな日常すらこれを見越してのことだったのかもしれない―――――…。 「ちょ…っ……重いんですけど!」 「そりゃあ、お前。大の男にのしかかられたら重いに決まってるだろう」 ジェイドが腕を突っぱねながら自分の上にいる男を睨みつける。 それは、マルクト皇帝…つまり主君なのだが、今はそんな事を問題にしているのではない。 問題なのは、ジェイドが今、その皇帝―――――ピオニーに、ベッドに追い詰められているという状況だった。 理由が分からないなんて、清らかな乙女ではないから、そんな事はないのだが。 だが、唐突過ぎるこの展開に、ジェイドの頭はついてこれないままだった。 混乱しているジェイドの様子が楽しいのだろうか、上の方で笑う気配がして、ジェイドの表情は益々渋面になってくる。 「お前は変なところで迂闊だよなぁ」 「…どういう、事ですか」 笑いながら襟を寛げないで下さい。 ふざけるなと言わんばかりにピオニーの腕をぺしっと叩くけれど、その動きが止まることはなくて。 力では、どういう訳なのか絶対にこの男には勝てた事がないから、果てどうしたものかと、ジェイドは冷静さを必死にかき集めて思考する。 少々下品ではあるが、男の弱点に蹴りを入れて逃げてしまうのが早いのというのが頭に浮かんだものの、しかしこの男が不能になっては、マルクト帝国が終わる。 困った。 さり気なく大混乱に陥っているらしい自分にも気付かず、上着を脱がされた所で、ようやくジェイドは現実へと帰ってきた。 「!!」 「お前、自分の身分がなんなのか分かってるか?」 黒のインナーとブーツだけになっている自分にようやく気付き、愕然としているジェイドを見て、ピオニーは上機嫌に笑っている。 何故この男はここまで楽しそうなのだと、ジェイドは苛立ちも隠さずに「軍人ですよ!」と言い返した。 「それで?お前はそれだけじゃないだろう」 「…………………まさか」 「あはは、実は今日付けで議会を通ったんだなぁ、婚姻の件が。」 つまりは初夜だな、と、物凄ーく楽しそうな顔で、ピオニーは軽いキスをジェイドへと贈る。 だがジェイドは、初夜、と聞いて、いよいよ自分の危惧していた事態が現実に起ころうとしているのだという事実に気が付き、白い肌を蒼白にした。 「ちょ…っと、待ってください、あの、正式な式典が終わってからでは―――――」 「婚儀まで処女かどうかはマルクトでは関係ないって知ってるだろう?」 処女、という言葉を聞いて、ジェイドは思わず身を竦ませてしまう。 今までそんな言葉には頓着すら…というか、軍内で話になった時もこんな過剰反応はしなかったのに。 だがピオニーの方は、そんなジェイドの僅かな変化には気付いておらず、専ら服を剥くのに夢中な様子だ。 「お前なら今まで結構何人も付き合ってきただろ、今更だ、今更」 いや、実は誰とも――――――…というジェイドの叫びは、喉元で押し留められた。 それを口にしてしまえば、ますますこの馬鹿が止まらなくなる危険性があったからだ。 軍内では随分と騒がれたりしていたジェイドだったが、実は恋人らしい仲になった相手の誰にも、肌を晒したことがなかった。 それは、まぁ単に人間よりも研究に没頭していたからというのもあるのだが。 男は大抵、研究の事や陛下の文句しか言わないジェイドに飽きて、自ら去っていった。 それでもいい、と言って、頑張って1年くらいは続いた相手もいたが、結局ベッドまで共にする事はなくて……。 だから、実はこういった事には全く免疫もなく段取りも分からない。 どうやって断ったら諦めてくれるのかも、知らないのだ。 しかしそんな事を簡単に告白出来るほど、ジェイドのプライドは低くはなく。 ぎっとピオニーを睨んだまま、それきり口を噤んでしまった。 しかし、少しばかり目元が潤んでしまっていたのは隠しようがなくて、それがどうやらピオニーの劣情を煽ってしまったようだった。 「強がってみせると、かえって男はやる気になるんだよ」 その様子に苦笑して、ピオニーはベッドにジェイドを投げた時とは全く逆の、優しい仕草で目元を拭う。 その行為に驚いて目を丸くしていたら、その隙にと言わんばかりに鎖骨の辺りまできていたインナーのファスナーを、一気に下ろされてしまった。 「悪い…ちょっと焦ってたな。」 「陛下……?」 低く響く声音にジェイドが思わず口を挟むと、ピオニーは見たことのない表情で苦笑していた。 苦しそうな―――――何かに耐えるような表情。 ああ、これが欲情してる時の表情なのか。 唐突にジェイドは理解して、苦笑してしまった。 だが。 「―――――…ぁっ!」 「だけど、やめない」 油断していたら、いきなり胸に手を置かれた。 置かれた、というのは咄嗟にそう思っただけで、実の所、殆どつかまれたようなものだった。 しかも、指先は敏感な部分―――つまりは胸の頂点にあって、この男の意地の悪さを痛感する。 これが、『男』としてのピオニー。 そして、これがその『男』に組み敷かれる、自分。 思いもよらず変な声が出て、その声がまるで自分の声じゃないみたいで――――…ジェイドは愕然とした。 ふと自分の体を見たら、先ほどファスナーを下ろした為に、半分以上胸が露出していたという事に気が付いた。 その上ブーツも中途半端に脱がされている途中で、今更ながら、ピオニーの手際の良さに閉口してしまう。 それもそうだろう、自分が経験ゼロなのに比べて、彼は頻繁に夜伽を部屋に招いていたのだから。 経験が豊富なのは、当然だ。 「…やめなさい、ピオ…ッ…」 怖い。 二の腕にかかる程度までインナーを脱がされて、ブーツを落とされて。 与えられる未知の感覚に抵抗もままならない状態で、ジェイドは半ば恐慌状態だった。 これが快感なのかも分からない。 だが身体に力が入らず、抵抗ができない。 何とか力が入ったとしてもインナーが邪魔で腕は上がらず、足を上げようにもピオニーの体が邪魔で、それどころか彼の動きを助けることにしかならない。 どうしたら、いい? 初めて他人に乳を吸われるなんていう感覚に肌を粟立たせながら、必死になって抵抗した。 しかし、ピオニーはそんな必死の抵抗すら、片腕で制してしまって。 改めて体格や力の差を痛感させられて、悔しいのだか悲しいのだか、何だかよく分からない感情が、ジェイドの胸のうちを過ぎった。 「―――――…こんな姿を、他の男にも見せてたんだなぁ」 勿体無い事をした、とばかりに嘆息して、ピオニーは乱れるジェイドの姿を堪能していた。 まさか、これが初めてで、混乱と快感が入り乱れてしまっているのだとは、微塵も気付いていないようだ。 そうして、自分でも殆ど触れた事のない場所にピオニーの手が触れた折に、とうとうジェイドは泣き出してしまった。 だがそれすら、今のピオニーには行為を加速させる材料にしかならなくて。 「うわぁ…お前、煽るの上手すぎるだろ」 「…ちが……!…ぁ」 指が入っていく。 身体構造上、粘液が分泌されて彼の指の動きを助けてしまうのは仕方のないことだった。 傷つかないよう、ジェイドの意思とは全く無関係に出てくるものだから。 「いやだ…っピオ…ニッ……!!」 「駄目だって。――――…っ……?」 何か違和感を感じたのか、唐突にピオニーは指を引き抜いた。 そして確認するように、回りを観察したり、ジェイドの顔色を観察したりして、ふと、動きを止める。 「…………………お前さ、もしかして…初めて……」 指が処女膜に当たったらしい。 それで驚いて、ようやくジェイドの様子や身体を観察してみて、経験がないのではないかという事に気付いたようだった。 今更過ぎる。 涙ぐんでいるのにも頓着しないまま、ジェイドは不機嫌そうに顔をそらして、肯定した。 「………え、でもお前」 「皆、そういった関係になる前に別れましたから」 あらん限りの声を絞って、冷たくそう言い放つ。 だが、ピオニーの方は大人しくなるどころか、一層楽しそうにジェイドへと近付いてくる。 「―――――…じゃあ、俺が初めてなんだな!?」 「…………不本意ながら」 心底嫌そうに、ジェイドはそれも肯定した。 先ほどから好き勝手にされて、もう抗う力も残っていなかったというのもあるが―――――これもまた本当に不本意なのだが、嬉しそうなピオニーの表情に、毒気を抜かれてしまって、怒る気も失せてしまったのだ。 それに、公私共に彼のものとなると約束をしたのだから、遅かれ早かれ、こういう事になっていたのだから、それが少し早まったと思えば、怒りも三分の二くらいにはなる。 溜息をついて、ジェイドは姿勢を低くして行為を再開したピオニーの背に腕を伸ばした。 +反省+ |