[赤い糸]
※ちょいグロ注意。微パロ。



























それまで強硬であったキムラスカが急に態度を軟化させたのに乗じて、皇帝一行は情報操作までして、秘密裏に和平を結ぶべくカイツールを目指していた。
キムラスカ側もそれには応じて、あちらも情報統制をしながらカイツールを目指し、つい先刻到着した、との一報があって、これは急がなければ、と尚足を速めた折のこと。

――――――唐突に、賊の襲撃に遭遇してしまった。
皇帝がカイツールへ向かっているなどという事を知れば、国内の強硬派が邪魔をするのは分かりきっていたので――――供としたのは懐刀たるジェイドと、彼の擁する第三師団の一小隊という僅かなものだった。
しかもその賊というのが、賊らしい服装とは裏腹に統制されつくしていたものだから…僅かばかりの兵は次々と倒され、とうとう十数人の兵と最初の攻撃で手負いとなったジェイドだけになってしまったのだ。

この賊らしからぬ賊は、恐らく情報がなんらかの形で漏れて強硬派から差し向けられたものか…あるいは、キムラスカ側の強硬派のものだろう。

不意を突かれ、身を盾にするのが精一杯だったジェイドは、既にかなりの量の失血で、肩で息をしていた。









「………っやりますね」

気配を絶っていたのだろう、茂みから放たれた矢にいち早く気付けたのはジェイドただ一人だった。
即座に槍を手に取りその殆どを打ち落としたのだが、さすがに間を置かずに放たれた次の矢にまでは手が回らなくて。
叩きつける雨のようにやってきたそれを、槍と自らの身でもって防いだら、案の定、肩やら足やら、3、4箇所に矢が突き刺さってしまったのだ。

「ジェイド!」

「貴方は先にカイツールへ。ここは私が何とかします」

案じている様子のピオニーに毅然とそう言い放つと、ジェイドは矢が刺さったままだというのに、すっくと力強く立ち上がった。
その際、ぼたぼたと体中の傷から血が迸ったけれど、それには頓着せず、音も立てずに現れた賊を睨みつける。
怪我をしているというのにそれを微塵も感じさせないその眼差しに、さしもの賊も恐れをなしたのだろうか――――なかなか次の攻撃をしかけてこない。
それをいい事に、ジェイドは横目にちらりとピオニーを見ると、言葉を続けた。

「――――…一番重要なのは戦う事ですか?」

「……ッ」

その低い声に、剣を手に取ろうとしていたピオニーはぴたりと動きを止める。

我ながら、きつい言葉だと思う。
ここで彼が参戦すれば、確かにいくらか状況は好転するだろう。
だが、今彼が最優先にすべきなのは、どこの者とも分からない賊の撃退などではなく、いち早くカイツールに到着し、キムラスカと和平を結ぶことだ。
定刻に到着しなければ、キムラスカが訝しがる。
その上、約束を反古にされたと、ここまで来させて暗殺するつもりなのでは、と、いらぬ諍いを招く危険性があるのだ。

それらを防ぐ為には、たとえここでジェイドが命の危険に晒されていようと、馬車を飛ばしてカイツールを目指さなければならない。
ジェイドの部下はその辺りを重々承知しているのだろう、指示するまでもなく一人を亡くなった御者の代わりに先頭に据え、既に馬車を立て直して待ち構えていた。
御者役以外の者は全て賊を食い止める事に専念することにしたらしく、思い思いに武器を手にして構えている。
優秀な部下だ、と内心微笑むと、尚も動けないでいるピオニーをじろりと睨んだ。

「ここで決断できていないのは貴方だけです。私達はここで賊を食い止め、貴方が少しでも安全にカイツールに辿り着けるよう戦うと決めました」

「………ジェイド、お前!」

「ッ……」

ぶち、と。
彼の言葉など聞きたくないとばかりに動きを妨げていた矢の一つ――――左肩に刺さった矢を勢い良く引き抜けば、筋肉の筋が切れる嫌な音が響いた。
肉をかいくぐってもぐりこんだ矢は、引き抜くと同時に大量の血と奥の肉を引きずり出して、ジェイドにひどい痛みを与える。

「……………言葉を変えましょう。和平と、私の命。どちらが大切なのですか?」

引き抜いた矢から糸のように血が垂れるのを、まるで他人事のように眺めながら…ジェイドは力なく微笑む。
そして、からん、と乾いた音を立てて矢を大地へと放り投げると、震える右手で槍を握った。

答えられない質問を―――――皇帝として、答えなど言うまでもない質問を投げかけている自分は、ひどく意地悪だと思う。

しかし、ここまで残酷に選択肢を用意しなければ動こうとしない彼の優しさを知っているからこそ、ジェイドはあえてこの問いを投げかけたのだ。

彼も、質問の意図とジェイドの意思を汲み取ったのだろう。
ひどく苦しそうに顔を歪めると、耐えられないとばかりに舌打ちをして馬車へと走り出した。

それを皮切りに、一斉に賊が剣や槍を片手に飛びかかってくる。
最初に弓で攻撃をしかけてきた連中も、再び弦を引いてジェイドの後ろへと狙いを定めた。













「させませんよ」

死霊使いの名に相応しい、ひどく酷薄な笑みを口元に浮かべると、ジェイドは弓使いのいる場所を狙って譜術を発動させる。
局地的な竜巻を起こすその術で、弓使いの殆どは武器と共に勢い良く拭き飛ばされ、不恰好に倒れた所を残ったマルクト兵に囲まれた。

その間に右の太腿に刺さっていた矢も引き抜くと、ようやく走り出したらしい馬車の音が聞こえてきて、ジェイドはほっと小さく息を吐く。

カイツールからこの地点までは、さほど離れてはいない。
このままここを食い止められれば、ピオニーは無事和平会談に間に合うだろう。

しかし、彼の事だ―――――例え少しばかり会談に遅れてでも、カイツール駐屯兵にここの援護を命じるだろうから、それまでは何とか命を繋がなくてはなるまい。









「ここで死んだら、『懐刀』の名折れですから……ね。」

まわりを兵に守られ、次の譜術の詠唱準備に入りながら、ジェイドは小さく笑った。






















+反省+
ジェイドいじめたい病発病中(笑)
お題も華麗に無視してます!普通らぶらぶな意図で使うだろう!という「赤い糸」を、血という意味で解釈する捻くれた屑は私くらいだと思います☆

設定も、ゲームとは別で一度和平の為に会談の機会が設けられた〜みたいな感じになってます。
話そのものも、単に「私と●●、どっちが大切なんですか?」という、本来ならバカップルのらぶらぶの常套句ともいえるだろう台詞を超真面目なシーンで使って みたかっただけというオチ…

できたら後日談追加します。

2006.9.12