[揺れる吊り橋] 彼と行動を共にするのは、もう随分と久しぶりかもしれない。 きびきびとした動作で先導していくフリングス中将の後姿を目で追いながら、ジェイドは景色を横目に眺めた。 久しぶりに、彼と一緒の任務を言い渡された。 地方の有力領主の元へと書簡を届ける、などという、普通ならばそう多くの人員を割く必要のない仕事なのだが…。 その領主である貴族は王族とも繋がりのある家柄である為に、相応の地位の軍人が向かわなければならない、ということになり、フリングス中将と、少佐であるジェイドが向かうという運びになった。 が、その道中、先日の嵐の為か、木々が倒れて道を塞いでおり、三個小隊程度を引き連れて、歩く事になり――――そして、現在に至っている。 だいぶ乾いているとはいえ、お世辞にも整った道とはいえない道を歩いているというのは、普段からは考えられないような悪状況で、普段のジェイドならばとっくに機嫌が降下しているところだ。 それでも黙々と歩き続けているのは、何とか場を保とうと部下に対して努めて明るく振舞っているフリングス中将に申し訳がないからだった。 つり橋に差し掛かった所で、日当たりのせいなのか乾ききっていない板の上を歩きながら、その年からは考えられないくらいに若々しい横顔をじっと眺める。 「―――――ここは立地的に、随分と景色が雄大ですよね」 「え?……ええ、そうですね」 こちらの視線に気付いたのだろうか? フリングスは唐突に、足は止めないまま話しかけてきた。 気付けば、彼は橋の下へと目を向けていて、下に広がる景色――――高原の岩肌と、その間に生える青々とした草木を眺めている。 「いつも艦で移動していたので、こういう景色を見る機会も減っていました。こういうのも、たまには良いものですね?」 にこり、と振り返ってほほ笑む彼の表情は、好青年そのものだ。 あれで未だに恋人がいないというのだから、グランコクマの娘達は、見る目がないのかもしれない。 少なくとも、ピオニーよりはよっぽど良い男だと思うのだが―――実際に女性からの熱い視線を一人占めしているのは、彼なのである。 そんな考え事をしていたせいなのか、ジェイドはうかつにも足を滑らせてしまい、無様に転んだりはしなかったものの、よろけた体を慌てて橋の手すり―――ロープで支えた。 「っ少佐!?」 「……っすみません」 渡り始めてすぐだったので、橋の上にいるのは自分とフリングスだけ。 ぐらぐらと橋が揺れて驚いた彼が、振り返ってよろけているジェイドを見止めたかと思うと、何のためらいもなく戻ってきて、手を掴む。 「…大丈夫ですか?」 ぐい、と。 優しげな外見には似合わない力強さで引き上げられたかと思うと、ごく自然に抱き寄せられた。 「さ、そんなに長い距離ではありませんから――――」 「一人でも大丈夫ですから」 まるでエスコートされているかのように扱われるものだから、表には出さなかったが内心慌てて断った。 だが、彼は首を横に振る。 「そのブーツでは、この橋は歩きづらいでしょう?どうかつかまっていてください」 社交界でなら必ずや女性を捕まえられそうな――――甘い微笑みを浮かべると、ジェイドが何かを言い返すよりも先に、彼はジェイドの手を取って歩き出してしまった。 +反省+ |