[箪笥の上の人形] 「…………」 小物やその他、様々なものを入れている棚―――いわゆる箪笥。 執務室で仕事をする上では、やはり必要になってくるものは沢山あって、執務室内ににも一つ、小物などを入れる為の引き出しが多くある棚が置かれている。 いつも、ジェイドはそこに必要最低限のものしか入れないのだが、引き出しのない一角に何かが置かれているような気がして、思わず確認しに近づいたら、見慣れないものと遭遇した。 「………人形?」 それは、トクナガ程ではないが、少々荒い縫い目の、手のひらサイズの人形だった。 黄色の毛糸で髪の毛が作られていて、その右側には何やら青いものがくっついている。 大きさからして細部まで作りこむのは不可能だったのだろう、どこかでみたような服装は、模様の所々が簡略化されていて、おざなりに縫いこまれたビーズの瞳は、空色だ。 「――――おー、ようやく気付いたか」 「…陛下…貴方の仕業でしたか」 いつの間にか隠し通路からこの部屋に侵入していた君主に驚きも振り返りもせず、ジェイドはそう言い捨てた。 玉座に座っているだけでいい筈の人間だというのに、気配の消し方やら剣の扱い方やら、妙なものばかり上手くなっていく彼を見ていると、溜息しか出てこない。 その上、こんなもの――――自分の人形を、勝手に執務室に置いておくなどと――――ばかげている。 「置いたのは俺だが、作ったのはガイラルディアだぞ」 作った、というよりは作らせたんだけどな。 さも当然のように言いながら、おー、よくできてるな〜などと、人形を横から眺めている。 彼をモデルとしたのだろう、いびつながらに、黄色の毛糸は彼の髪の長さと同一だし、少しずれているビーズの瞳も同じ空の色、何より左側についている髪飾りが、ピオニーであることを表していた。 だが、一体何故こんなものを? 視線だけで疑問符を投げかけると、彼はさも楽しそうにのたまった。 「もちろん、俺の代わりにお前のそばにいてもらおうと思って、だ」 「………馬鹿ですか、貴方は」 「一国の皇帝に向かって馬鹿とは何だ、馬鹿とは」 ピオニーは、時折こうして妙に子供じみたことをしでかしてくれる。 昔ケテルブルクでも、風邪を引いたネフリーの為に、と、窓辺に雪ウサギならぬ雪ブウサギを作ってやったりしていたので、もしかすると、こういった事をするのが好きなのかもしれない。 理由は、結局よくは分からなかったけれど、恐らくは子供じみた見舞いの品で、今のこの人形は、きっと単なる遊びだろう。 そんな風に見当をつけ、また一言付け加えてやろうと顔を上げたら。 「―――――…」 「お前は一人でいると、いつも無茶やるか、馬鹿なこと考えるかのどっちかしかしないだろう?だから、これは監視代わりだ。」 人形ごときに監視だなんて、馬鹿らしいにも程がある、とか。 そんな些細な理由の為に、ガイに人形などを作らせたのか、とか。 あらゆる文句が脳裏を通り過ぎていったけれど、言葉と共に不意打ちで触れた唇のせいで、全て吹っ飛んでしまった。 今更、額にキス程度で照れるような仲でもないというのに―――――…。 「また、最近難しそうな顔してたからなぁ。図星だったろ」 言葉が出ない事を違う方向で解釈したのだろう、にやりと笑うピオニーに、ジェイドはごまかすように咳払いをすることしかできなかった。 そうして人形は、棚から執務机の上へ――――ジェイドがより見える位置へと移動された。 +反省+ |