[たとえばの話] ※たまたま話で盛り上がって出てきたネタ。激短 「お前がもし敵だったら、と考えることがある」 カードを引きながら、ピオニーはなんでもないことのような調子でそう呟いた。 皇帝の気まぐれにより遊戯につき合わされていたジェイドは、その発言の唐突さに、暫時目を丸くする。 (珍しい事もあったものですね) ピオニーは、基本的に仮定や未来の話をあまりしようとしない。 口にする前にまず実行し、少しでも早く理想的な未来を手に入れようと動く気質の男だから、それは自明のことであったのだが―――最近色々なことがあった為に、その気質すら乗り越えて、先の発言が飛び出してきたのだろう。 またブラックジャックかよ、という恨み混じりの声を笑みであしらいながら、ジェイドは優雅な手つきでカードを投げた。 「仮定の話は無意味です。それに、私が貴方の敵に回ることはありえませんよ」 「分かっている。ありえないからこそ想像してみたくなったんだ」 に、っと、臣下にすら滅多にみせない人の悪い笑みを浮かべてピオニーが言うものだから、ついつい、ジェイドはその言葉の続きを聞きたくなってしまう。 もうとっくに消えうせてしまったと思っていた、雪国で共に勉学に励んでいた頃の顔。 その顔で一体どんなことを言い出すのか―――無意識のうちに期待してしまっていたのかもしれない。 そんなジェイドの内面すら読んでいるのだろうか、と思えるようなタイミングで、ピオニーは再び口を開く。 「まず、第三師団は全員離反するだろうな。お前のところの兵は、俺というよりお前についている」 「そんな事はないですよ。彼らはあくまでマルクトの剣―――私個人の手駒ではない」 「お前も奴らの目を見れば分かるだろう。口先では皇帝陛下の為に、と言いながら、それは真実ではない」 なぞなぞを解く子どものように、ピオニーは尚も楽しそうな口調で言葉を続ける。 一応手は今までやっていたカードゲーム―――ブラックジャックを続けているのだが、もはや優先順位が移動してしまった為に、彼は勝ち負けを全く気にしなくなっていた。 「反逆の理由によっては、あるいはキムラスカをも敵に回してしまうかもしれないな」 なんでもないことのようにとんでもない予想を口にして、ピオニーは自らのその台詞がおかしいと感じたのだろう、急にはじかれたように笑い出す。 「……陛下、お戯れが過ぎます」 「うん?」 仮定の話とはいえ、もし懐刀が裏切ったら、などという話をすることは褒められたものではない。 互いにそれはありえないことだと分かっているので話をすること自体は問題がないのだが、それを何処かで誰かが聞いている可能性がある、ということが問題なのだ。 それはいらぬ火種を振りまくのと同義であり、そういった火種を嫌うジェイドは、従ってこの話をあまりしたくはない。 「それに、私は離反などしません。貴方が愚かな行いに走ったその時には、離反ではなく別の手段を取るでしょう」 「ほう、例えば?」 「さあ?…真っ先に刺し殺すんじゃないでしょうか?」 あっさりと「殺す」と口にする臣下の言葉があまりに白々しくて、ピオニーは思わず吹き出してしまった。 全く、それこそありえない話だ―――――――思わず口から出そうになった本音をなんとか飲み込んで、ピオニーは目の前でカードを睨んでいる男の目をじっと見やる。 大半の者が「何も感じていないように見える」と評するであろう彼の目は、しかしその実、彼の無駄によく回る口や無駄に大げさな表情よりもよほど雄弁なのだ。 その目が僅かに動揺したのを鋭く読み取ったピオニーは、それだけで満足げな笑みを口元に浮かべる。 「――――――では、せいぜいいきなり刺されないよう頑張るとするか」 ジェイドの「そうしてください」という突き放した物言いすら軽く流して、皇帝はすっかり負け越しが確定してしまっているゲームへと思考を戻していった。 +反省+ |